私は事件ルポが大好きで、雑誌から単行本まで様々な殺人事件を取り扱ったノンフィクションものについて結構な数を読んでいる。
それは学生の頃からで、学生の自分にはデアゴスティーニの「週刊マーダー・ケースブック」も全96号買ったくらいだ。
事件ルポものはただ単に興味本位で読む。殺人事件のノンフィクションから学ぶことなど殆どない。せいぜい事件の真相や裏側を知ることができるくらいで、生きていく上では何の役にも立たない。
悪趣味ともいえるわけだが、新聞が報じる上っ面だけの事件だけでは満足できないから、何があったのかを確認してしまいたくなる。
数々の事件ルポを読んだ私だが、最近新潮文庫から出た「消された一家 北九州・連続監禁殺人事件」(540円)はかなりのものだった。北九州市で起きた監禁・殺人事件を取り扱ったものなのだが、内容が強烈。
事件のあらましについては、ほかのルポを読んで知っていたが、詳細を知るとページをめくるものしんどく感じるくらい気分が悪くなる。さしもの私も、この本にはまいった。
北九州監禁殺人事件は、松永太という男が首謀して行った7人の人間に対する監禁・殺害事件である。はっきり言って、日本の犯罪史上例を見ないような凶悪な事件であり、これを超える事件はこれ以降もないのではないかと思われるほどだ。
松永は自ら7人もの人々を直接殺害することはなかった。虐待して暴力による支配をすることによって、他人にターゲットの人物を殺害させる手法を取った。7人の犠牲者のうち、最初に殺された人物を除き、6人は家族であり、子供がふたり含まれていた。
殺されたのは、不動産仲介業の男性、逮捕された緒方純子の父親、母親、妹、妹の夫、妹の子供ふたりである。
事件では、殺された6人の家族でもある緒方純子が逮捕され、殺人罪で起訴されたが、その緒方純子を松永と同列の殺人犯として扱うのは間違っている。結果的に緒方純子は家族殺しに荷担したが、緒方純子自身も内縁関係にあった松永から酷い虐待と暴行を受けており、最後まで生き残ったという順序の問題程度でしかない。
私の気分を悪くさせた、身の毛もよだつ松永の殺人の手口はこうだ。
松永は頭の回転が速く、異常に口がうまい。それでまず他人に自分を信用させ、取り込む。その後、その人物の負い目を探る。自分がやっている犯罪の手伝いや、その人物が漏らした過去の過ちなどだ。松永はそれにつけ込んで、その人物を虐待を始める。その際、その人物の家族や友人など、全ての知り合いに電話をかけさせ、相手を罵るなどさせて険悪な関係にした上で、松永への依存が高まるようにし向けている。
松永がこのようなことをするのは、全て金のためだ。最初はうまいことやって金を巻き上げ、用済みになると虐待して殺すのだ。
松永が特に好んだ虐待は通電である。松永は電化製品などに使われる電気コードを使う。途中で切った電気コードの被覆を剥き、その先端にワニ口クリップを付ける。そのワニ口クリップをターゲットたる人物の体に取り付け、電気コードをコンセントに抜き差しして電気ショックを与える。
手足の指が多かったが、何度も通電されることで常時火傷を負ったような状態になる。最初に殺された男性は肉が削げ、骨がむき出しになるような状態になっても繰り返し通電されていた。通電箇所は化膿し、体液がしみ出るなどして指同士が癒着して離れなくなったりした。
この通電でもっとも強力なのが、両乳首への通電と上下の唇への通電である。両乳首へ通電すると、心臓にまで電気ショックが届き、心室細動を起こして心停止状態に陥ることがある。また、唇への通電は、湿った口内から脳幹、脳に電気ショックが伝わり、脳に異常を来すことになる。
最初の殺された男性、3番目に殺された緒方純子の母親は、腕が不自由になるほか、脳に異常を来し、正常な思考を保てなくなるばかりか、前後不覚の状態に陥ることになった。
この通電は、あらゆることへの罰として行われた。監禁している人間に与えられる食事は、1日1回、食パン8枚で、相撲のそんきょの姿勢を取って7分以内に食べなければならないなどというルールがあった。それを守れなければ通電だ。
また、松永は監禁して虐待している人に用便の制限をした。小便は決められた数のペットボトルに出し、大便は1日1回、松永の許しを貰ったときだけできた。万が一大便を漏らしてしまった場合、その大便を家族が見ている前で食べさせられ、汚れたパンツはきれいになるまで吸わされることになる。
それ以外にも、松永は就寝の自由も奪った。監禁されている人は狭い風呂場などに押し込められ、体育座りのまま寝かされた。
また、日中は全員台所に何時間も立たされた。
松永のその虐待は緒方純子の一家7人のうち、緒方純子の妹の4歳の息子以外に全て行われ、9歳の長女の例外ではなかった。
この北九州の監禁・殺害事件でもっとも忌まわしきところは、通電という恐怖で緒方の家族を支配した松永が、家族通しで殺人をさせたことにある。特に、緒方純子の妹の娘は、母親殺しと父親殺しにも荷担させられた。家族で家族を殺した後は、残された家族に殺された人物の解体をさせる。体を解体し、肉をそぎ落とし、内蔵を取り出してバラバラにした上で、人体を鍋で煮込んだりミキサーにかけるなどさせる。
このとき、松永は一切何も手伝わない。ただ指示をしているだけ。
「消された一家 北九州・連続監禁殺人事件」を読むと、松永がどれだけ凶悪化をこれでもかというほど知らされる。繊細な人物であれば、虐待シーンや、家族同士で殺されるシーンは読むに耐えないだろう。
ただ、それ以外にも、なぜ一家が松永にいいように支配されたのかという疑問がどうしても残る。
きっかけは、松永と緒方純子の詐欺や暴行などの犯罪を隠すためであった。松永にいいように操られていた緒方純子が罪を犯したかのように松永に言い寄られ、いいとこの旧家である緒方家はそれをひた隠しにしようとして、松永に取り込まれた。
全財産を奪われた挙げ句に、金が調達できない用済みと見なされてからは、次々と殺されるハメになった。緒方純子の妹の夫は、元警察官であったにも関わらず、松永に支配され、洗脳され、奴隷となった。
「消された一家 北九州・連続監禁殺人事件」は、読んだ者を実に陰鬱な気分にさせてくれる本だ。嫌な気分になりたい人は、書店で購入して読むことをお勧めする。
ほかの多くの事件ルポのように、この本からも学ぶことなんか何もない。ただただ陰鬱になるだけ。強いて救われる点を挙げるとしたら、緒方純子が松永の支配から解放され、人間らしさを取り戻し、自らが荷担した罪に真摯に向き合っていることくらいか。
それ以外は、世の中の不条理を感じるだけだろう。


by 先っちょマン
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